クリニックの離職 Part 3:定着率を上げる方法
2026年1月27日 ・ 濱村久美
クリニックの院長・事務長向けに、離職要因を踏まえた定着率向上策を整理します。明日から着手できる具体例と進め方が分かるかと思います。
本稿はクリニックの離職シリーズのパート3になりますが、パート1と2をスキップしても読んでいただけるようになっております。
- パート1:人材不足が引き起こす問題
- パート2:離職の主な原因
- パート3:定着率向上のための取り組み(本稿)
まず押さえたい全体像
離職防止は「人を引き留める施策」ではなく、働き続けやすい環境を設計する取り組みです。具体的には、次の2つを同時に整える必要があります。
- 働きやすさ(業務・シフト・休み)
- 現場で起こりやすいギャップ(例):残業前提のシフト、希望休の不公平感、業務の属人化
- 大事にされている実感(関係性・評価・成長)
- 現場で起こりやすいギャップ(例):相談できない、頑張りが伝わらない、学べない
次に、実行に移しやすいよう、対策の「3本柱」をご紹介します。
対策を「3本柱」で設計する
離職理由は人間関係・業務過多・評価や給与への不満・教育不足に集約されやすいです。対策は次の3つに分けると、漏れなく優先順位を付けやすくなります。
1. 環境を整える
- ねらい:疲弊・不公平感を減らす
- すぐにできる一歩:直近1か月の残業・欠勤・希望休の偏りを可視化する
2. コミュニケーションを増やす
- ねらい:不満が表面化する前に拾う
- すぐにできる一歩:面談の頻度と担当者を決め、カレンダーに固定する
3. 制度を見える化する
- ねらい:評価・昇給の納得感を作る
- すぐにできる一歩:給与テーブル/昇給条件をA4 1枚にまとめる
1. 働きやすい勤務環境づくり
最初に手を付けるべきは、毎日の負荷そのものです。業務量が過剰な状態では、どれだけ声掛けを増やしても消耗が上回ります。
以下の観点で「不満が溜まりやすい構造」を減らします。
- 人員に余裕を持たせ、残業前提のシフトをやめる(パートタイマーの活用など)
- 有給を取りやすい雰囲気を作り、希望休の調整ルールを明確にする
- 休みの不公平感が出た場合の是正方法(代替案・優先順位)を決めておく
補足:制度やシフト変更は、スタッフ数・診療時間・繁忙期の波で最適解が変わります。まずは「どの業務が、どの時間帯に、誰へ集中しているか」を棚卸ししてから設計しましょう。
2. 人間関係とコミュニケーション
勤務環境の負荷を下げたら、次は関係性の設計です。人間関係の問題は「放置→爆発」で離職につながりやすいため、定期的に拾う仕組みを作ります。
具体的には、次の3つをセットで運用します。
- 定期面談を実施し、悩みを相談できる「逃げ道」を用意する
- 短時間の情報共有(例:朝のコーヒーミーティング)で体調・状況を把握する
- 日常的に声掛けし、感謝やねぎらいを言語化する(個人とチームの両方)
また、指導が厳しすぎると萎縮や自信喪失につながり、ミスの誘発や離職の引き金になります。指導後に必ずフォローの言葉を添えるなど、指導方法そのものを教育することも重要です。
補足:面談で聞くと効果が出やすい質問例
面談は「問題探し」よりも「前に進む材料集め」と位置づけると、率直な対話になりやすいです。
- 最近、負荷が高いと感じる業務はどれですか?(理由も)
- 困ったときに相談できる相手はいますか?いない場合、何が障壁ですか?
- この1か月で「ありがたい」と思ったこと、逆に「もやもや」したことは何ですか?
- 今後伸ばしたいスキルは何ですか?それを伸ばすために必要な支援は?
3. 社内制度の見える化
3-1. 教育と成長の設計
次に、長く働く動機を作るには「成長の見通し」が欠かせません。教育が属人化すると新人の不安が増え、早期離職のリスクが上がります。
- 新人教育マニュアルを整備し、教える人による内容のばらつきを減らす
- 資格取得やスキルアップが昇給・手当に結びつく仕組みを用意する
- 新人に任せる業務の段階(到達目標)を明確にし、達成を可視化する
3-2. 評価・給与・制度の「見える化」
努力が報われる感覚は、関係性と同じくらい定着に効きます。不満は「金額そのもの」より、「基準が分からない・人で変わる」ことで生まれがちです。
- 給与テーブルや昇給ルールを、書面で分かりやすく示す(必要に応じて見直す)
- 評価の観点(例:接遇、業務精度、チーム貢献)を明文化し、面談で共有する
- 制度変更がある場合は、目的・影響・移行ルールをセットで説明する
3-3. 福利厚生と職場の工夫
制度の透明性を整えたら、最後に「小さな不満の芽」を潰します。日々のストレスは些細な点に蓄積するため、改善を継続できる仕組みが効果的です。
取り組み例:
- 介護・通院付き添い・子育てなどに対応する特別休暇や時短勤務制度を整える(導入時は就業規則の整備が必要)
- 休憩室の備品を整備する
- ユニフォームを見直す(例:ノンアイロン素材の採用)
福利厚生制度の拡充例:
- 交通費支給(上限月額など条件を明記)
- 昼食代の一部補助
- 健康診断やインフルエンザ予防接種などの健康サポート
- 懇親会・イベント費用の補助(目的と頻度を明確に)
- 誕生日・勤続年数に応じたギフトや特別休暇(例:バースデー休暇、勤続表彰)
- 外部の福利厚生サービスへの加入(福利厚生倶楽部(リロクラブ)やベネフィット・ステーション、chocoZAP(チョコザップ)法人プラン等)
よくある懸念は「課題+対策」で示す
メリットだけを並べると現場感が薄くなります。あらかじめ課題を認めたうえで、対策までセットで示すと信頼につながります。
業務量が多い
- 業界の特徴(正直に):繁忙期は負荷が上がりやすい
- 対策例(院内でできること):業務分解と役割の再設計、受付・会計などのピーク対策(応援/時間帯シフト)
人間関係がこじれる
- 業界の特徴(正直に):少人数職場ほど関係が固定化する
- 対策例(院内でできること):面談の定例化、指導ルールの共通化、相談窓口を複線化
評価が不透明
- 業界の特徴(正直に):院長やリーダーの主観に寄りやすい
- 対策例(院内でできること):評価項目の明文化、昇給条件の可視化、フィードバックの型を統一
新人が育たない
- 業界の特徴(正直に):教育が属人化しやすい
- 対策例(院内でできること):マニュアル整備、OJT担当の指名、到達目標の段階設計
まず1週間で着手するなら
最後に、優先度の高い順で「最小の一歩」をまとめます。大きな制度変更より、状況把握と対話の固定化から始める方が失敗しにくいです。
- 直近1か月の残業・欠勤・希望休の偏りを集計し、負荷が集中している箇所を特定する
- 面談の担当者と頻度を決め、全員分をカレンダーに登録する
- 給与/昇給/評価のルールをA4 1枚に整理し、疑問が出やすい点を洗い出す
- 新人教育の「到達目標」を3段階に分け、何をいつ任せるかを決める
まとめ
離職防止の本質は、制度よりも「目の前のスタッフと向き合う姿勢」を日常に落とし込むことです。まずは負荷の可視化と、ねぎらい・相談の機会を固定するところから始めましょう。