レセプト返戻をマスターしよう
2026年1月26日 ・ 濱村久美
レセプト返戻の対応で「何が原因か」「どう処理すべきか」と迷うことはありませんか?本ガイドでは、返戻と査定の違いから再請求までの5ステップ、予防策までを体系的に解説。
レセプトの「返戻」とは
医療機関が保険者に提出した診療報酬明細書(レセプト)に不備や不明点があり、審査支払機関(支払基金や国保連合会など)や保険者が診療報酬の適否を判断できない場合に、レセプトを医療機関に差し戻す手続きをいいます。
【重要】 返戻を放置するリスク
レセプトの返戻は再請求しないと、その分の診療報酬(保険給付分)は基本的に「一切支払われないまま」になり、未収金として確定してしまいます。長期間放置すると、請求期限(原則5年)を過ぎて、医療機関の持ち出しとなり利益圧迫につながります。
返戻と査定の違い
返戻と査定は混同されやすいですが、実態も対応方法も全く異なります。
返戻(やり直し)
- 定義:審査できないため差し戻し
- レセプトの返却:あり
- 診療報酬の支払い:当該分は支払われない
- 再請求:可能(修正後)
- 異議申立:不要(修正して再請求)
- 対応期限:5年以内(時効)
- 収入回復の可能性:高い(修正すれば全額)
査定(減点)
- 定義:不適当と判断し減額
- レセプトの返却:なし
- 診療報酬の支払い:減額して支払われる
- 再請求:不可
- 異議申立:再審査請求が必要
- 対応期限:原則6ヶ月以内
- 収入回復の可能性:再審査次第
返戻があった時の基本認識
誤解されやすい点ですが、返戻は「支払わない」という最終決定ではなく、「内容に不備・確認事項があるので一度戻します」という段階です。 修正・確認のうえで改めて請求することが可能です。
返戻処理の流れ
1. 返戻通知の確認
紙レセプトの場合は通知が届きます。オンラインレセプト請求システムを使用している場合は、医療機関が返戻データの有無を自主的に確認する必要があります。
確認方法:
- 審査支払機関(支払基金/国保連合会)のホームページにログイン
- 「返戻」ボタンからデータをダウンロード
- レセコンに返戻レセプトのデータを登録
※定期的(月1回等)に返戻データの確認を行いましょう。
2. 返戻理由の特定
返戻通知(返戻内訳書・返戻レセプトデータなど)から以下を確認します:
- どのレセプト(患者・年月・保険者)が返戻されたか
- どの項目(資格・点数・算定要件など)が返戻理由か
返戻理由コード・コメントを確認し、カルテ・レセコン入力・保険情報・公費情報など実際の記録と照合して「入力ミスか」「資格情報の誤りか」「算定要件の不備か」等を判断します。
3. 修正のパターン
事務的な誤りの場合:
患者情報・保険情報・負担区分・日付・回数・コメントコードなどの誤りは、レセコン上のデータを正しいものに修正します。
診療内容に関する誤りの場合:
カルテを確認後、必要があれば医師に確認し、レセコン上のデータを修正します。
紙レセプトの場合:
修正箇所を横二重線で削除し、余白に正しい内容を記載します。
4. 修正が難しい場合
算定要件が満たされていなかった場合や、医学的に認められにくい算定である場合は、無理に修正せず、院内で方針を確認したうえで対応を決めます。
- 指摘箇所の減点を受け入れる場合:該当項目を削除
- 異議がある場合:コメントを追加し再審査請求
5. 再請求
電子レセプトでは、原則として「返戻ファイルをレセコンに取り込んで修正し、そのデータを使って再請求する」ことが推奨されています(履歴と再請求データが紐付けされて送信・審査されます)。
再請求時の注意点:
- 診療及び請求年月を確認
- 種別(社保/国保)を確認
- オンライン請求の締切日に注意
- 他の月遅れ分と併せて漏れなく送信
代表的な返戻理由
以下は、よく見られる返戻理由とその対処法です。
返戻理由と対処法
資格喪失
- 典型的な原因:保険証の期限切れ、退職・転職後も旧資格で請求
- 対処法:オンライン資格確認を活用し正しい資格情報で再請求
記号番号相違
- 典型的な原因:保険証更新後も旧番号で請求、転記ミス
- 対処法:正しい記号・番号を確認し修正
氏名相違
- 典型的な原因:漢字の誤字、旧姓での登録
- 対処法:保険証原本と照合し修正
生年月日相違
- 典型的な原因:和暦・西暦の変換ミス、入力ミス
- 対処法:保険証と照合し修正
傷病名不備
- 典型的な原因:診療行為に対応する傷病名がない
- 対処法:対応する傷病名を追加
算定不可
- 典型的な原因:届出なしの施設基準項目を算定、回数制限超過
- 対処法:算定要件を確認し修正または取消
重複請求
- 典型的な原因:同日に複数回算定できない処置を重複
- 対処法:重複部分を削除
点数計算誤り
- 典型的な原因:改定後の旧点数で請求、加算の計算間違い
- 対処法:最新の点数表で修正
書類不備
- 典型的な原因:添付書類(計画書・同意書等)の不足
- 対処法:必要書類を準備・添付
公費負担誤り
- 典型的な原因:公費負担者番号の誤り、負担割合の計算ミス
- 対処法:公費受給者証を確認し修正
社保・国保別 再請求締切スケジュール
※以下は東京都国保連合会の例です。国保の運用は都道府県により異なる場合がありますので、所属する都道府県の国保連合会にご確認ください。
請求受付期間の比較
社保(支払基金)
- 請求受付期間:毎月5日〜10日
- 稼働時間(5〜7日):8:00〜21:00
- 稼働時間(8〜10日):8:00〜24:00
国保(国保連合会)
- 請求受付期間:毎月5日〜10日
- 稼働時間(5〜7日):24時間(3:00〜5:00除く)
- 稼働時間(8〜10日):24時間(3:00〜5:00除く)
返戻ファイル関連スケジュール
具体例:1月診療分のスケジュール
1月1日〜31日:診療期間
2月1日〜4日:メンテナンス期間(社保)
2月5日〜10日:レセプト請求受付期間(原請求)
3月5日:返戻ファイル配信
3月20日頃:診療報酬支払(電子請求・早期分)
4月5日〜10日:返戻レセプトの再請求期間
6月初旬:返戻ファイルのダウンロード期限(3ヶ月)
【注意】保険種別が変わった場合(社保↔国保)
オンライン返戻再請求は不可(L2118エラー)となります。月遅れ請求として新規作成が必要です。
返戻を減らすための予防策
返戻理由を毎月集計し、繰り返し出ているパターンを洗い出して、スタッフ間で情報共有し、マニュアル等に追加しましょう。
効果的な予防策:
- 資格確認の徹底(オンライン資格確認の活用)
- よく返戻になる加算のチェックシート作成
- ダブルチェック(医師・事務での相互確認)
- 返戻パターンの分析と対策マニュアル化
判断に迷うケースへの対応
返戻事由のみで詳細情報の把握や判断が難しい場合は、以下に相談しましょう:
- 審査支払機関(支払基金/国保連合会)
- レセコンベンダーのサポート窓口
詳細が不明なまま再請求は行わず、外部に確認して正しい情報を反映させることで、再度の返戻やトラブルを防ぐことができます。